保育コラム

【臨床心理士コラム】保護者との連携と関わり方

目次
こどもの成長と大人同士の関係
保護者と連携するときの保育士の気持ち
保護者とのコミュニケーション
最後に

 ここでは、保護者の方とコミュニケーションをとるときの留意点や、その意義について書いていきます。意義と言われると大層に聞こえますが、要するに大人同士が支え合いながらこどもを見守ることがとても重要であるということです。 

 護者の方にも様々な人がいて、それぞれの個性に合わせて関わりを検討する必要があります。なかにはどうしても関わりにくいタイプの方がいます。保育士のあなたが出会うであろう少し難しい保護者の方のタイプを少しだけノートにまとめてみました。参考にしてみてください。

こどもの成長と大人同士の関係

 平成30年に改訂された保育所保育指針は、その改訂の方向性のひとつに、「保護者・家庭および地域と連携した子育て支援の必要性」を掲げています。保育士は、積極的に保護者の方と連携をとることが求められています。なぜでしょうか?
理由はいくつか考えられます。ここではこどもの心理的発達の視点からその重要性を考えてみましょう。

 生まれたばかりのこどもは、まだ生活の仕方というものを知りません。手探りで生まれ落ちた世界について探索を続けます。そのとき重要になるのはこどもの生活を守り育てる大人の存在です。生まれたばかりのこどもにとって保護者は世界に関わる手足のような存在です保護者の中で育まれるこどもは、ずっと保護者に頼って生きていくわけにはいきません。こどもは生まれた瞬間から保護者から自立して生きていこうとする仕組があります。

 困るのは、こどもが自立して生きていこうとする仕組は、保護者にとってとてもしんどいことだということです。すぐに思い付くのは、2歳頃からはじまるイヤイヤ期ではないでしょうか。
 こどもは自立しようとして、保護者をはじめとする大人にとって負担になるようなことをたくさんしてくれます。しかしそれで大人がつぶれてしまい、安定してこどもに関われないとしたら、こどもは自立した生活習慣をみにつけることはできません。その負担を分かち合う大人の関係があってはじめてこどもは安定した成長をとげることができます。

 どうしたら、大人は子育てでつぶれずにやりきれるでしょうか?子育ての苦しみはこどもが自立して生きていくためにぬぐいさることはできません。だからこそ、その気持ちを汲み取り理解してくれる人が必要です。その役割を担うのは、保護者の身近にいる大人です。

 保育士は身近にいる大人の中でも特にこどもの心身の発達や養育についての専門家です。保育士が保護者の負担や不安、不満を聞き取り共有することで、保護者は自分の苦しみに見通しを持つことができるようになります。逆もまたしかりです。保育士であるあなたが、こどもの関わりで困ったことや悩んだことがあったなら、誰に相談するでしょうか?
 当然、職場の保育士やスーパーバイザーが思い浮かぶと思います。しかし、本当にその子の専門家と呼べる人は、その子の保護です。もしあなたが、保護者の方と率直にその子の関わりについて話し合えるとしたら、こどもの関わりの工夫も広がるはずです。

大人4人と子供達

保護者と連携するときの保育士の気持ち

 保護者との連携の要点は、お互いの体験を共有し、こどもとの関わりを継続していくことでした。ポジティブな内容もあれば、ネガティブな内容のときもあります。問題はネガティブな内容を共有しないといけない時です。

 ネガティブな内容を共有するとき、喜んでする人はいないと思います。するとどんな気持ちや考えが沸いてくるでしょうか?
例えば、「自分が悪いと思われたくない」「保護者から文句を言われるんじゃないか」「保護者が悪いからなんとかしてほしい」あるいは逆に「自分は本当にどうしようもない奴だ」「自分は責められて当然だ」などなど。この考えがノート5から8にあげた、関わりの難しい保護者の方の考えと共通していることにも注意してください

 このような考えをもっていると、保護者の方とコミュニケーションをとっていても、その保護者本人をみず、自分の考えだけで話を進めてしまいます
よくでてしまうのが、けど○○なんです」でも○○です」などの逆接で言葉を繋ぐ態度です。

 なぜこのような言葉の使い方をするのでしょうか?
それは、話相手の言葉を切って、自分自身の気持ちや考えを押し通そうとしているからです。
このような話し方をされた保護者は、いくら自分の話をしても切り捨てられている気分になり気持ちよくはありません。保育士は可能な限り自分の気持ちや考えがどの様な状態になっているか自覚する必要がありますそして、相手や自分自身に否定的な気持ちになっているなら、その気持ちが態度や言葉遣いなどから無自覚のうちに相手に伝わってしまうことを自覚することが重要です。

女性と笑っている子供

保護者とのコミュニケーション

 逆接で繋ぐと相手に不快を与えるのであれば、順接で言葉を繋ぐべきだということになります。
「どうして○○できないんですか!?」という保護者に対し「はい。できません」と伝えるだけでは、おそらく保護者は逆上するでしょう。
しかし、施設の限界として保護者に枠組みを言わなければいけないときは必ずあります。どうすべきでしょうか?

 そのとき重要なのは保護者と保育士自身双方に対する肯定的な態度です。すなわち、保護者に対して「枠組みを越えようとする保護者は積極的にコミュニケーションをとっているだけで、悪いことをしているわけではない」という考えを、保育士自身に対しては「保護者の意向にそえなくても私は悪い人間ではない」という考えをもてているかどうかです。

 ノートにも繰り返し書いていますが、まず施設の枠組みを毅然と共有することが重要です。(もちろん言葉遣いや共感の態度は必要です!)それは枠組みの問題であって保護者の人格や保育士の人格が問題ではありませんそれなのに私たちはルールに疑問をもったり、越えていこうとする人たちを人格的に批判しがちです。
 しかし枠組みについて疑問を感じたり越えていこうとしたりすることは、その人が積極的に主体的に行動している証拠でもあります。(こどもが、大人に負担をかけて自立していくことを思い出してください)

 枠組みの話をするときこそお互いに信頼を築くチャンスです。毅然と枠組みを伝えるということは、できないことを伝えているにではなく、保護者の選択肢を伝えるということです。
保護者が可能な範囲で選択したことを尊重し、全力を尽くす姿勢を見せることができたなら、保護者の方もまた、施設に対しての信頼を経験するはずです。

 私たちは枠組みのないなかでは安心して生活することができません。逆に枠組みが明確であれば、その枠組みのなかで自由に生活することができます。それは保護者と保育士の関係も同じです。はっきりとした枠組みのなかで保育士が働いているからこそ、保護者は安心して話をすることができます

 もちろん、人は枠組みの範囲内で自由になるのだから、その枠組みがきつすぎると、何も共有できません。施設の(そして個人の)限界がどこにあって、なぜその限界があるのかを常に見直す姿勢も忘れてはなりません。

公園で遊ぶ保育園児達

最後に

 保護者とのコミュニケーションは、こどもの成長に欠かせない要素です。そのため必要なのは、保育士自身の気持ちや考えを知ること、働く施設や自分自身の限界がどこにあるかを知ることです。

 保護者がその限界を越えていくことは、決して保護者が人格的に悪いわけではありません。しかし、それを受け入れることはとても辛い仕事です。
 保護者が子育てのなかで受ける辛さを吐き出し受け止めてもらう人が必要なように、保育士もそのぬぐいされない辛さを受け止めてもらう必要があります。

 安全に(外に洩れないように)陰口を言える人がいますか?自分の正直な気持ちをありのまま吐き出せる場所が必要です。