保育コラム

臨床心理士コラム】発達に偏りのある子どもとの関わり方【

目次
発達の偏りと発達障害
>こどもの発達で大事なこと
>こどもとのコミュニケーション
>最後に

はじめに

 ここでは、こどもの発達の概観を説明し、発達に偏りのある子と関わる上で、押さえておきたいポイントについてまとめています。発達に偏りのある子と関わるとき、私たちは何か特別なことをしなければならないと考えてしまいますが、何よりも大事なのは普通のコミュニケーションを続けることです。

 発達の偏りにもいろいろなパターンがあります。幼稚園や保育園でみかけるこどもの様子とその関わりの工夫については、ノートにまとめていますので、参照してください。


発達の偏りと発達障害

 私たちは同じ人間でありながら、それぞれ個性があります。その個性は大きく2つの要因で形づくられますひとつは、生まれてから今日まで生活環境から積み重ねてきた経験です。そしてもうひとつが、生まれたときから備わっている発達特性です。この特性は、足が速い、背が高いといった身体的なものと、たくさん記憶できる、先のことまで考えられるといった心理的なものとがあります。

 足の速さが人それぞれであるように、心理的な発達にも個人差があります。この個人差にも大きく2つの要因が考えられています。ひとつは、発達の速さです。発達が速く、高い水準まで届きやすい人と、比較的遅く、低い水準に留まりやすい人がいます。そしてもうひとつが、今回まとめている発達の偏り、発達のスタイルです。
心理的な発達特性と一口に言っても、様々な力があります。目でみる力、イメージを回転させる力、言葉を理解する力、etc…。いずれの力についても、私たちはそれぞればらつきをもって生まれてきます。

 人によってはそのばらつきが、生きにくさに繋がることがあります。特に人と関わり社会的生活を営むために必要な力が苦手な人は、生きにくさに直結しやすい傾向にあります。

 発達の偏りが顕著な人の問題は、発達障害と呼ばれることがあります。発達障害者支援法では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」とされています。

 このうち、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害は、現在の精神医学では、自閉症スペクトラム障害とまとめられることが一般的です。
学習障害は幼稚園や保育園で診断されることは極めて稀だと思います。そのため、ここでは触れません。
注意欠陥多動性障害は、英語の頭文字をとってAD/HDと呼ばれることが多いです。この障害は、注意の問題と多動の問題にわかれます。どちらが優位であるかで、関わりかたも異なってきます。


こどもの発達で大事なこと

 先述に、人の個性の要因に、経験と特性が考えられると書きました。発達のあり方も、生まれながらの特性だけでなく、経験の影響を無視できません。どれだけ頭がよくても、勉強をしなければテストで点をとれないように、こどもはそれぞれの発達特性に応じて経験を吸収し、成長、発達していきます。

す なわち、こどもの発達は、大人の関わりが重要です。発達におくれがあったり、偏りがあったりすると、こどもは経験を効率的に成長や発達に結びつけていくことができません。そのため、大人がこどもの発達特性に合わせて配慮することが必要です。

 しかし、家庭ではできる配慮も、幼稚園や保育園の集団生活では、難しいことが多いかもしれません。どれだけ大人が関わっても、こどもは全く成長していないように感じると、こどもに関わる気力がなくなり、精神的なストレスになることも考えられます。

 忘れてはならないのは、(繰り返しになりますが)こどもはそれぞれの発達特性に応じて経験を吸収し、成長、発達していくということです。他の子と比較して緩やかな成長であったとしても必ず成長しています。
あなたが、できる範囲で工夫しとりくんでいる全てが、こどもの力になります。例えいまの関わりが失敗だったとしても、その経験をもとにこどもの関わりを工夫するならば、こどもは大人からあたたかい眼差しを向けられていること気がつくようになります。

 発達に偏りのある子は、そのような大人の眼差しに気がつきにくい場合があります。だからこそ、根気強く関わることがどうしても必要です。発達障害の子は○○だから、こうしたらいいという考え方をもってしまうと、こどもに関心を向け自分なりに工夫するというプロセスがぬけてしまいます。

 こどもとの関わりは、内容よりも、こどもと一緒に関わりを検討していくプロセスが重要です。根気強く大人がこどもに関心を向けることで、こども大人に関心を向け返し、社会性を育む基礎を築いていくことができるようになります。


子どもとのコミュニケーション

 発達の偏りは、多かれ少なかれ誰にでもあります。また発達の偏りに関係なく、こどもは言語力が大人に比べてまだまだ未熟です。発達障害と呼ばれるような状態の子でなくても、こどもとコミュニケーションをとる際には、大人がこどもの水準に合わせることが必要です。
普段のこどもの言い回しや、こどもが興味関心をひきそうな話題を知っておくことが大切です。

 こどもが問題を起こしているときでも同じです。
こどものことを理解し、関わりを工夫していくためには、こどもの様子を観察しなければなりません。こどもは、言葉だけでなく行動や態度でいろんな情報を与えてくれます。こどもの問題にみえる行動も、こどもからのメッセージです。

 そして、こどもからの様々な情報に応じてコミュニケーションしつつ、可能ならいまここで起こっていることを言葉にして、こどもに気付きをうながしていくことが重要です。

 いまここで起こっていることとは、こどもがしている行動、そこから推測されるこどもの感情、それを受けての私たちの感情などです。
特に発達に偏りがあると、自分の感情を理解するのが苦手になりやすいです。
具体的に、「こういう所から、あなたがこういう感情になっていると思う」と伝えてあげれば、こどもは自分の感情に気がつくことができるようになります。

 このとき、こどもをコントロールしようという気持ちで関わっていると、こどもは大人の支配から逃れようとして、大人の思いどおりには動きません。焦らずゆっくりと呼吸して、こどもの行動や発言にしっかりと関心を向けましょう。

 大人が自分に興味関心を向けていることがわかると、こども自身も大人に関心を向けるようになり、問題視されている行動も変わりやすくなります。

最後に

 お互いに関心を向け、言葉でも態度でもコミュニケーションしていくという経験は、私たちが日常的に行っていることです。しかし、発達に偏りのある子と関わろうと意気込んでいると、あるパターンでこどもをみてしまい、その自然なコミュニケーションができなくなります。

 発達に偏りのある子の中には、言葉の使い方が表面的であったり、感情の気付きが苦手であったりします。そのため、私たちにとって自然なコミュニケーションだと思い込んでいても、彼らから思わぬ反応が返ってくることがあります。

 でも、焦る必要もなければ、失敗したと思う必要もありません。コミュニケーションでは、全てが情報です。予想外の反応から、こども理解が深まり、創造的に次の対応を考える必要があります。こどもにとっては、大人が自分とのコミュニケーションを楽しんでいる気づくことで、社会的な発達の基礎を築くことができます。